ものづくり:プリント生地

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布の国

インドは“布の国”といわれるほど、布を抜きにしては語れない国。それは国旗の中心にある円形の図柄が、糸を紡ぐときに使われるチャルカ(糸車)がもとになっていることでもわかる。女性が身にまとうサリーは5m以上もあるし、男性は腰や頭に布を巻く。それを日常的に何億もの人々が纏っているのだとしたら、その種類や柄の豊富さたるや想像すらできない。かつては英国の植民地支配によって途絶えかけた伝統的な綿工業も、マハトマ・ガンディーの登場とともに、独立運動の象徴を担っていくことで復活していく。そして、このブロックプリントという伝統的な染色(捺染)技法も途切れることなく、古い歴史を連綿と紡いできた。紀元前の古代インドではすでにこのプリントは行われていたといわれ、16世紀頃のマハーラージャ(王侯)たちが、贅を尽くして着飾るために職人をそれぞれ保護したことでさらに発展する。

すべての工程は、手作業で

すべての工程は手作業で行われ、機械は一切使わない。名前にあるブロックとは木で作られたスタンプのことで、いわゆる木版のこと。使うのはチークやローズウッドなどの堅くて伸縮しにくい木で、使ったときに歪みがでてしまわないように、何年も乾燥させたものを選ぶ。その木片に、オーダーされたデザインを職人がていねいに手彫りしていく。身近にある草花やペイズリー柄、幾何学模様に架空の動物など様々な柄に対応し、繊細で緻密な柄も見事に彫刻していくさまは、まさに熟練した職人のなせる技。しかも使う色ごとに版を押していくため、色の数だけブロックが必要になる。

ブロックの準備が整ったら、布に版を押していく。次々と繋ぎ目なく押していって柄を連続させるのが、ブロックプリントの大きな特徴。布地に直接ブロックを置いて、上からブロックの持ち手を軽く叩く。ブロックには小さな空気孔がいくつも彫られており、叩くことで染料にできた気泡などが抜け、むらなくしっかりと色がのる。ひとつ押したらブロックを染料につけ、前の柄と隙間なく繋がるように慎重に布の上で合わせて、またブロックを押す。この作業を色ごとにひたすら繰り返して、一つの柄を完成させていく。画像にある作業風景はデモンストレーションのため、1枚の布に4型のデザインをプリントしているところ。これが生産体制に入る場合は、長大な布に1型を延々とプリントして量産していく。オーダー数や使う色によっては、何千回何万回とブロックを押していくことに。ちなみに、職人として認められるには何年もの修行を要するそうで、手先の器用さはもちろん、勘の良さや集中力なども必要な厳しい仕事でもある。

自然のリズムとともに

使用する染料は、季節や気候、湿度や気温によって生地への色の出方や仕上がりが違ってくる。職人たちはその都度染料の調合を変え、ブロックを押す力も微妙に加減していく。それでも日干しの日照時間が十分でなければ、仕上がりの色は変わってしまう。日差しが強すぎてもいけないし、弱すぎてもうまく染まらない。雨の日は乾かないので、作業自体が休みとなる。だから職人たちは、朝の空気や風でその日の天気を読むことにも長けている。それはまるで、潮の流れや月の満ち欠けに合わせて舟を出す漁師のように。彼らは自然のリズムとともに生き、気候に合わせて働く。必要以上に急ぐこともないし、のんびりするわけでもない。もちろん雨季のシーズンは出来上がるまでに時間がかかるし、年中行事であるお祭りの前はそっちの準備にまわったりなど、そもそも現代社会の仕事のリズムとは合っていないのかも知れない。それは、彼らにオーダーした商品の納期が遅れまいかと気をもみつつ、日々のスケジュールに忙殺されながら日本で待つ私たちの姿とは対照的だ。それでも、やがて届いた布を見たときに、私たちはいつも感動することになる。柄をよく見ると、色がすこしはみ出ていたり、かすれたり、にじんでいたり。見る場所によっては微妙にずれているときもある。それらはまるで呼吸をしているかのような表情を柄にもたらし、永遠に連続していくかのような、生きた色彩美が目の前に広がる。こればっかりは、機械プリントでは決して味わえない。このプリントが教えてくれることを、私たちは大切にしていきたい。